Shooting Star
〜バリー・スターンリットが世界一のホテル王になるまで〜


風薫る5月は1年の中でも、最も気持ちの良い季節である。
今日はゴールデン・ウィークに相応しくホテルの話しでもしよう。

91年9月、ロンドンでの不動産投資に失敗して一文無しとなった31才のバリー・スターンリットは、鉄道王バンダービルドの末裔バーデンファミリーや、後のソフトバンクの買収で有名になる大手出版社オーナーのジフファミリーからの6000万$の出資により、スターウッド・キャピタルをスタートさせる。まず彼は、破綻した金融機関から不良債権を引き継いだRTCのバーゲンセールに参加した。
彼が買ったアパートのポートフォリオは、シカゴの不動産投資家サム・ゼルに高値で売れた。わずか1年半の後出資金は4倍になり、バリーは見事に投資家の期待に応える事が出来た。

彼はいくつもの不動産取引を繰り返していくうちに、ホテル業界の構造的な問題、すなわち収益性を無視した無節操なチェーン展開に気付いた。
「大手ホテルは不動産所有者と運営者が分離しているため、歴史的に両株主の利害衝突という問題を抱えてきた。つまり出店すればするほど運営会社は儲かるが、競争激化により所有者は苦しくなるんだ。」
問題のある所には必ずチャンスがある。もしも所有者と運営者の利害を一致させ、ホテルの投資効率を劇的に改善することが出来たなら…

やがてバリーは、彼のアイデアを証明する恰好の投資対象に巡り会う。
95年ホテルインベスターズトラスト(HOT)を買収。この株価僅か1$の会社には隠れた価値があった。HOTは80年代の法改正の適用除外となった、僅か4社しかない貴重なペアドシェアドREITだったのだ。
REITとは1960年に生まれた非課税の不動産専門の投資法人である。
勿論法人税免除の代償として、通常のREITは収益の95%以上の配当の他、業務規制等の制約も大きい。HOTは、実態は別の資産保有会社と運営会社が不可分の双子会社として上場されており、REITでありながら本来兼営出来ないホテルチェーンの運営を行い、しかもその収益について課税を回避出来たのだ。

ペアドシェアドの節税メリットを活かしながら、こつこつとホテルへの投資を続けてきたスターウッドが、ビジネス界でスポットライトを浴びるのは、国際的な高級ホテルチェーン、ウエスティンの買収によってである。100年の間ユナイテッド航空グループの傘下にいたウェスティンはバブル絶頂の89年、日本の中堅ゼネコン青木建設に買収された。結局この投資は大変な重荷となり、94年青木は売却先を探し始める。バリーは、イーサン・ペナーの率いるノムラの不動産金融部を訪ねた。深刻な景気後退を経験したばかりの当時のアメリカには、CMBSの成功により急速に台頭しつつあったペナーのチーム以外に不動産投資に資金を出す者などいなかったのである。
6億$の資金を手にしたバリーは、95年にゴールドマン・サックス社との連合でウエスティンを買収する。ウェスティンの単独オーナーとなるのは、98年1月である。

彼の進撃はここで止まらなかった。ホテルの経営には金がかかる。
一方でホテルの売上は、施設の規模によってほぼ上限は確定される。
競争の激しい業界で生き残るには資産を高稼働させるしかない。
バリーはITを利用した予約、在庫管理システムの確立が成功の近道であると知っていた。彼は世界一のホテルチェーン、シェラトンに触手を伸ばす。シェラトンはコングロマリットのITTの傘下にあったがヒルトンからの10ヶ月にも及ぶ買収攻勢に苦しんでいた。
シェラトンの持つ莫大な資本力を手に入れれば、巨額の情報システム投資が可能になる。税負担が少なく配当性向の高いREITは、当時株式市場の人気者であった。激しい買収合戦の末、スターウッドは自社の高株価を利用した株式交換により、ヒルトンを打ち負かすことに成功した。133億$でシェラトンを傘下に収めたスターウッドは98年2月、スターウッドホテル&リゾートワールドワイドとして再出発した。バリーは、世界70ヶ国に650以上のホテルを展開する文字通りのホテル王になったのだ。自身の成功の秘訣について彼は語る。
「何しろハードに働いたんだ。過去15年で180の投資をした。失敗したのはそのうちたった2件だよ。とにかく幸運っては素晴らしい。でもそれを掴める人間にならないと意味はないんだ。」

彼はREITというシステムを最大限利用することにより、ついには世界一のホテルチェーンを築き上げた。しかし僅か1年後、幸運をもたらしたこの仕組みに別れを告げる日がやってくる。
買収に次ぐ買収で外へ向けた拡大が一段落すると、今度は利益の大半を配当しなければならないREITは、資金の内部留保が出来ないという欠点が目に付くようになったのだ。折しもスターウッドの躍進に危機感を抱いたホテル業界の既存勢力、マリオットやヒルトンはREITの税逃れを吹聴する強力なロビー活動を展開していた。スターウッドの株価は、一時は60$を超えていたが98年8月には36$まで下落した。
99年1月スターウッドは通常の株式会社形態に変更する。バリーは言った。
「私はREITを諦める。スターウッドは世界最良のホテル運営会社の道を歩むのだ。」ついにペアードシェアドREITの税制優遇措置が変更され、法人税非課税特権は多額の配当支払の前に色褪せたのだ。

世界最良のホテル運営会社の道を歩む、という彼の言葉に偽りはなかった。
不動産投資はスタッフに任せ、バリーはホテリエとしての仕事に専念する。
99年5月にカジノ部門を30億$で売却したスターウッドは、ホテル部門をウエスティンホテル&リゾート、シェラトンホテル&リゾート、フォーポイント、ラグジュアリーコレクション、セント・レジス、98年に出来たばかりのWホテルの6つのブランドに整理する。
そしてハード面においては、古くなり機能低下した箇所の修繕、改装に力を注ぐ一方で、安眠を科学的に分析・追求したヘブンリーベッド等の新商品の開発にも余念はない。ソフト面では、一流の講師を招き、あらゆる状況を想定したスタッフトレーニングが有名である。徹底したスタッフ育成への投資額は、全米トップクラスと言われている。
また、航空会社のマイレージプログラムのホテル版とも言えるスターウッドプリファードゲスト(SPG)も好評である。SPGの特徴は、(1) 入会金、年会費無料(2)有効期限なし(3)ポイントの使用不可日の設定なし(4)ポイントの使用期限なし(5)飲食のみでもポイント加算(6)主要航空会社マイレージプログラムへ1対1でポイントの移行が可能等である。この他にもルームサービス、モーニングコールからタクシーの手配まで全てのリクエストの窓口を一本化したサービスエキスプレス等、スターウッドは常に新しいアイデアを世に送り出し続けている。
クーパース・ライブラントのアナリスト、B・ハンソンは言う。
「バリーはいつでも物事を他人とは違う角度から見ることが出来るんだ!」

1960年生まれのバリー・スターンリットの物語はまだ完結していない。
スターウッドは現在、全世界に716のホテルを運営し、客室数は21万室を超える。2000年度の売上は前年比13%増の約44億$、株価は2000年頭に20$まで下落したが、その後順調に上昇し、2001年4月27日終値は34.81$。
この話にいったんの区切りを付けるため、スターウッドホテル&リゾートの基本理念を紹介して、今日の別れとしよう。
それは極めてシンプルである。

"Customer is best." & "make the impossible possible"


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